title-left 「鍼」という字をご存知ですか

お近くにある「しんきゅう」院を見渡すと、「針灸」と書いてあったり「鍼灸」と書いてあったりしますね。その違いはなんでしょうか。
結論から披露しますと、特に治療内容とは関係なく同じ文字として使うことができますが、その文字の背景には違いがあります。
「鍼」は後漢時代(100年)に成立した『説文解字』に登場する古い文字で、中国医学の古典籍である『素問』、『靈樞』にも頻出する文字です。一方、「針」は宋代(1039年)に成立した『集韻』という字書に収められていますが、我が国では701年に制定された『大宝律令』の中で医療制度を定めている「医疾令」には「針師」、「針博士」といった役名として見つけることができます。
つまり「鍼」を用いる時には、凡そ2000年に渡る中国伝統医学を意識しているとも言えますが、そうであっても一般的に読みやすい「針」を使うという場合もありますので、一概には言えません。
ところで現代の中国では「針」が一般的です。
鍼灸で用いるのは言うまでもなく「はり」と「きゅう」ですが、鍼灸でしていることは「経絡」やその上にある「(ツボ)」の反応を、単に体の表面だけでなく、深部の反応でもあるとして「補寫」を加えることです。
「補寫」とは「補うことと、寫す(「除く」の意)こと」です。つまり「足りない所を補い、余分な所を寫す」ということになります。ではその足りなくなったり余分になったりするものとは何かというと、一般に「気」といわれるものです。
解りやすい例を挙げますと、概して「気」の不足とは「冷え」「(動作開始時の)痛み」「痺れ」「重さ」といったものを指し、「気」の余分(有余)とは「熱」「腫れ」「赤み」といったものを指します。
ただ、症状が現れている所に治療をするとは限りません。
現代医学においても、例えば体にむくみが生じている場合にその水をそのまま針を刺して抜かずに、原因となっているであろうと思われる臓器のうち、どれが関係しているかを調べて相応しい治療をします。
一方、鍼灸においても同じくその症状と関係する臓腑とその働きに着目して「経絡」や「経穴」選び、そこから病んでいる部位や疾患に対して適切な施術を行います。
勿論、運動器疾患ばかりが鍼灸の治療対象とは限りません。むしろ名前が付かないような、患者さんが自分でもきちんと説明出来ないような不快な症状や疾患でも、著効を発揮する場合が少なくありません。
例えば、「めまいがするので病院で詳しく調べてもらったけれども、貧血や高血圧でもなく、メニエールでもなかった。」というような、原因や病名がよく分からないものでも、鍼灸ではきちんと治療方針(証)を立てて施術することができますから、お気軽にご相談ください。